大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成4年(ネ)4937号 判決 1993年12月14日

控訴人兼附帯被控訴人

大西政枝

被控訴人兼附帯控訴人

新田交通株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

本件附帯控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の、附帯控訴費用は附帯控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を次のとおり変更する。

(二)  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金一二八七万〇四二九円及びこれに対する平成二年七月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  主文第二項と同旨

(四)  訴訟費用は、第一、二審を通じ被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

(一)  主文第一項と同旨

(二)  原判決中被控訴人ら敗訴の部分を取り消す。

(三)  控訴人の被控訴人らに対する請求を棄却する。

(四)  訴訟費用は、第一、二審を通じ控訴人の負担とする。

二  当事者の主張

次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりである。

1  控訴人の当審における主張

本件事故当時、被控訴人染野運転の加害車両が第二車線から第一車線に進路変更して、路側端から一・七メートルの地点で停車しドアを開き、その地点で衝突事故が発生したとする原判決の認定は誤りであり、真実は、被控訴人染野が第二車線で停車中に急にドアを開いたため、控訴人は、これを避けることができずに、衝突して転倒したものであり、本件事故について控訴人には全く過失はないものである。そして、原判決は、控訴人の症状は、平成元年一月末日に症状固定したと認定しているが、控訴人の症状が少しにせよようやく快方に向かつたのは、平成三年四月であり、これ以前に症状が固定したとするのは、事実に反し不当である。

2  被控訴人らの当審における主張

被控訴人染野運転の車両は、控訴人のバイクには全く接触しておらず、原判決の認定は誤つている。そして、被控訴人染野は過失がないから、被控訴人らは損害賠償義務を負わない。そして、仮に接触事故があつたとしても、控訴人の傷害は、事故後九〇日で治癒しており、控訴人の主張する損害は過大である。

三  証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  事故態様及び過失割合について

原判決挙示の証拠と当審における証人大朏博善の証言によれば、事故現場である甲州街道下り車線の第一車線(最も歩道寄りの車線)において、乗客を降車させるため停車した加害車両(タクシー)の約二〇センチメートルほど開かれたドアに、後続して進行してきた控訴人運転の被害車両(原動機付自転車)のハンドル先端部分が接触する態様で衝突したものと認定することができ、両者の接触がないのに控訴人が転倒した自損事故であるとする被控訴人らの主張は採用できない。

そして、右の証拠によれば、本件接触事故は、加害車両の運転者が後方を十分確認することなく、ドアを開いたため発生したものではあるが、加害車両は、第二車線ではなく、最も歩道寄りの第一車線に入つて停車したものであり、車内で乗客との間で料金の受渡しをしたうえ、ドアを開いたものであつて、控訴人が前方の加害車両の動静を注意して進行しておれば、加害車両の運転者が停車して乗客を降ろすため、ドアが開く可能性を予見することが可能であつたものと認められ、事故が発生したについては、控訴人の前方不注視の過失があることも否定できず、加害車両運転者と控訴人の過失の割合は、原判決と同じく、九割対一割であると判断する。

二  控訴人の症状固定時期について

本件事故の態様が右に認定したとおりのものであつて、原判決挙示の証拠によれば、事故直後の控訴人の様子は、血が流れるなどの大きな外傷はなく、現場で知人と話しのできる状況であり、事故後、徒歩で近くの病院までいつているなど、大きな障害があるとは思えない状況であつたこと、また、事故直後に警察官が人身事故扱いをするかどうかを聞いているとき、控訴人ははつきりと人身事故の扱いを求めなかつた点からみても、控訴人本人としては、大きな障害があると認識していなかつたことが認められる。このことに、原判決認定の治療の経過(この点については、当裁判所も原判決説示のとおりであると認める。)を総合して検討すると、昭和六三年六月一〇日の事故当日から約八カ月経過した平成元年一月末日には症状は固定しており、その後も疼痛等の自覚症状が続いたが、特段労働に影響するような後遺障害は残らなかつたものと判定できる。以上と異なり、長期間障害が続いているとの控訴人の主張は、右の認定と異なる前提に立つものであつて、採用することはできない。

三  結論

そして、原判決挙示の証拠によれば、控訴人に生じた損害の合計額は、原判決説示のとおり三一五万四四三〇円であると認めることができる。

そうすると、この損害につき前記の割合で過失相殺を行い、更に控訴人がすでに填補を受けた金額を差し引き、これに弁護士費用として相当と認められる金額を加算すると、原判決が認容した一七九万八九八七円とこれに対する遅延損害金の限度で、控訴人の請求を認容するべきこととなる。したがつて、原判決は相当で、本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないから、これを棄却するべきである。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤繁 淺生重機 杉山正士)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例